heaven's sky -episode6- は眠っている。深い眠りに。そこで彼女は夢を見た。 「、」 後ろを振り返るとアーサーが立っていた。普段着は着ておらず、出会ったときと同じ布切れを身に纏っていた。頭の上にはリングが浮かんでいる。これが天使の輪っかというものなのだろうか。とりあえず目の前にいるのは顔の知っているアーサーだと確認できた私はひとりではないとほっとし、安心した。 「ここはどこなの?」 「あの世の入り口」 「ってことは私死んじゃうの?」 「どうだかな、それは分からねえ」 私たちのいる空間は何もなく、ただ白い壁が一面に張り巡らされているだけであった。遠くに小さなドアが見える。それはどこかの病院の一室を思い出させた。たったひとつ違うのは電気が灯ってないはずなのにやたらと眩しいことだ。しかし何故か私の視界は悪く、ぼんやりとした霞んだ光景しか見られなかった。もちろんアーサーもはっきりとは見えない。 「お前は生きたいか?」 突然アーサーが問いかけた。 「そりゃあ生きたいよ。こんな若くして死にたくないし」 「俺もお前に死んでほしくない」 「え?」 「だからお前には生きて欲しいって言ってんだよばかあ!」 「ばかって言えば済む問題じゃないでしょ!」 夢だとはいえ、いつもの風景に似すぎていたので思わず笑ってしまった。本当に夢なのだろうか、思わず現実と錯覚する。 「それもそうだけどな。俺にはお前を生きてここから帰らせる術を知っている」 「本当に?」 「ああ、お前は俺のことをなんだと思っているんだ」 「天使」 「だろう?俺は天使だ。お前をここから帰らせてやる」 「で、どうやったら私は生き返れるの?」 「俺の心臓をお前にやる」 「へ?」 「二度は言わねえよ」 おかしなことを言っていると思った。けれど彼の目はいつになく真剣であった。 「天使の心臓は特殊でな、人間に捧げることができるんだ」 アーサーが言葉を続ける。 「それを受け取った人間は必ず生き返り、今まで通りの生活が送れる。まあ、俺の心臓をあげたら俺は消えてしまうんだがな」 「アーサーいなくなっちゃうの?それはやだ」 「、今はお前の命が最優先だ。第一そんなことを言っている場合じゃねえ。お前は死にかけてる」 「アーサーが消えたら私生きてても面白くない」 本当のことであった。私にとってアーサーは生活の一部となりかけていた。彼と出かけた公園、ショッピング、たまに一緒の布団で寝た温かいベッド。なんてことのない日々と思うかもしれないが、とても日々充実に満ち溢れていて私を幸せにしていた。それほどに彼を愛おしく思い、手放したくないとも思っていたのだ。 「全くこれだから人間は。感情を持つってのは愚かだな。俺はお前が幸せに生きてくれたらそれで満足なんだ。正直な話、俺はお前が死ぬと俺も死ぬんだ。結局俺はいなくなる運命なんだよ」 「なんでアーサーも死ぬの?」 「俺は今までのお目付け役だったってわけさ」 「それって、ずっと天国から私を見てたってこと?」 「そういうことだ」 「だからお前を助けてやる。心臓やるから俺の胸に手を当てろ」 私は渋々アーサーの胸に手を当てた。すると彼の左胸から光の塊が出てきて私の腕の中に入っていった。指先から頭、足先へ光が体中を行き交う。そして最後に私の心臓に到着した。ぽっと何かが灯ったと同時に胸に温かいものが感じられた。先ほどまでの霞んだ視界が鮮明に浮かび上がる。 「なんだか周りがはっきり見えるようになった」 「だろ、お前はこれで助かる。良かったな」 「でもアーサーが消えちゃうのはやだ!」 「ったく人間は・・・。でも俺、のことは気に入ってたぜ」 「私、アーサーのことが大好きだよ。これからもずっと」 アーサーがにこりと笑う。それはいつもの憎たらしい笑みではなく、穏やかな笑みであった。ああ、こんな綺麗な表情もできるんだ。私は思った。アーサーがだんだんと消えていく。まばゆい光を放つと共に身体が薄くなっていった。私はそれを阻止しようと抱きしめたが、するりと容易くすり抜けた。「アーサー!」私は叫んだが、彼の声はどこからも聞こえず、ただ私の声がこだまするだけであった。 そこでは夢から覚めた。 NEXT (10.10.26) |