heaven's sky -episode5-







「いってきます」
「おー」


が家から出ていく時、なんとなくイヤな予感がした。なので信号はちゃんと青で渡るんだぞ、と親のように忠告した。虫の知らせというかなんというか。しかし元気に玄関をあとにするを俺は止めることができず、ただ見送るだけしかできなかった。


はまだ死ぬような頃合いではない。それは俺だけにしか分からないことであった。


俺はキッチンへ向かうと湯を沸かし、棚にあった紅茶の缶を開けた。ティーポットに紅茶の茶葉を二杯ほど入れる。これは先日ととあるデパートへ買い物をしたときに買ってもらった紅茶のセットだ。俺が以前ミルクティーが美味いと言ったことから、彼女は紅茶セットも買わないとと言って購入したものである。やかんに入った水は沸騰するのにまだ時間が掛かりそうだった。


部屋に戻り俺は窓から外を見渡した。どんよりとした雲が空を覆い、今にも雨が降りそうな模様であった。そういえばあいつ傘持っていったっけ。玄関へ行き傘立てを確認するとやはり彼女は傘を忘れているようだった。仕方ないなあ、俺は先ほど出ていった彼女を追って傘を渡しに行くことにした。部屋着から普段着に着替える。


もう少しで湯が沸きそうになっていたが火を止めた。紅茶は帰ってから飲むことにしよう。合い鍵と傘を持って玄関を出る。外へ出て空を見上げてみるとやはり雲行きは怪しく、今降ってきてもおかしくない天気であった。足早にの学校へ赴く。




彼女の学校へ向かっていると、急に隣で救急車が大きなサイレンを出して走り過ぎていった。何事か、俺は思った。救急車は俺の向かう方向に同じく道を走らせていた。まさかな、心の中で朝に感じたイヤな不安とただの勘違いという気持ちが交錯する。走りながら救急車と同じ方向に向かっていると突如近くで止まった。そこには大勢の野次馬がいて、何かを取り囲んでいた。気になった俺は野次馬を押しのけて前へ進む。漠然とした不安と焦燥感が俺の中で渦巻いていた。




俺は見てしまった。この目で。が体中から血を流しながらうずくまっている姿を。


!」


叫ぶが彼女は一切微動だにしなかった。救急隊員が車内から降り、意識があるのか確認し脈を計っていた。何も反応のない彼女に彼らはすぐさま応急処置をし、救急車から運ばれてきた担架に乗せを車内へと運んでいく。俺はその状況とただただ見つめることしかできずにいた。


は死ぬにはまだ何十年も余命があるはずだ、なぜ今死のうとしているんだ。突然の出来事すぎて、俺の思考が間に合わない。





ぱらぱらと雨が降り出した。救急車は既に病院に向かっている。先ほどまで多くいた野次馬もほとんど消え、ひっそりとした静寂がその場に包まれる。が倒れていた現場を眺めた。そこには彼女はもういなく、残された大量の血液だけが残されていた。血が雨に滲んでこちらへ流れてくる。靴に血がついた。俺は傘をさすことなく、雨に濡れながらぼんやりとその現場に佇んでいた。








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(10.10.22)
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