heaven's sky -episode4-






「いってきまーす」
「気をつけてな」
「アーサー、くれぐれも私のいない間はお酒を飲まないように」
「・・・分かったよ」


彼が私の家に居候をし始めて一カ月が経とうとしていた。私は彼のことをアーサーと呼び捨てに呼ぶようになり、以前よりも仲が深まったように思える。休みの日になると私たちは買い物へ繰り出し、彼の部屋着を買ったり私の普段着を買いに行ったりした。この間の週末のことだ。アーサーは私の洋服を選んでくれ、この服はに合う、と彼に勧められた洋服を迷うことなく買ってしまう自分がいた。紺色のブラウスにデニムのスカート。昨日の夕方、私はそれを着て、二人でまた公園へ出歩いた。途中にたい焼き屋があったのでたい焼きを二つ買った。かりっとした皮とほくほくと温かい中身の餡子は思っていたよりも美味しく、アーサーはこんなうまいもんも下界にはあるのな、と感心していた。


また、彼が大好きな酒が入るとめそめそと泣き出し、私に同情を求めてきた。未成年の私は当然お酒は飲めなくいつも彼の愚痴を聞き、飲みすぎたら介抱をしていた。そんなアーサーを面白いと思いまた可愛い奴だと感じた。


気がつけば私の生活はアーサーを中心に回っていた。知らず知らずのうちに。彼といると居心地が良いしずっと一緒に居たい。一緒に朝起きてご飯を食べ、暇があればどうでもいいような(しかし私にとっては有意義な)会話をする。そんな時間が私をあたたかく幸せにさせた。




玄関から出ようとした時、アーサーが私に伝えた。
「信号はちゃんと青で渡れよ」
「当たり前でしょ」
「なんだ、まあ気をつけろってことだ」
「はいはい」


私は玄関をあとにした。今日の晩ご飯は何にしよう。帰りにスーパーに寄って食材でも買おうかな、学校へ向かう途中であるのに既に帰りのことを考えていた。アーサーと食べる晩ご飯は美味しい、一人で食べていたときよりもずっと。彼も私の作った料理を美味いと言ってくれるので、最近は専ら腕によりを振るって料理を作っている。以前はコンビニかスーパーの総菜で済ませていたのに。これは私にとってすごい変化だ。そうだ、今日はアーサーの好きなカレーを作ってやろう。以前カレーを作ったときにすげえ美味いと大絶賛してもらったことがある。今日はやけに機嫌がいい。何故だろう、おそらく朝起きたときアーサーの寝顔がとてつもなく愛おしく思ったからだ。美しいが少しはねている金髪。長いまつげ。整った綺麗な顔立ち。私はそれにいつか触れたいと思っていた。




そう考えていた時のことだった。





キキィー―










が宙を舞った。
信号が青になった横断歩道を渡っている途中、猛スピードでやってきた車に一瞬にして撥ねられた。




数十メートル撥ねられたは身動きを取れずただうずくまっていた。
(ああ、身体が重い。)
の身体から血が止めどなく流れ、地面に広がっていく。
(何してるんだろう私。)
轢いた張本人の男が車から出て、焦りながらの意識を確かめる。反応がない。たまらず119番に電話をかけた。早口で救急車が来るのを頼んでいる。
(早くいかなくちゃ。)
そこには既に大勢の野次馬が群がってを囲んでいた。しかし彼女は微動だにも動かず、ただただ血が溢れるばかりであった。




(アーサーは元気かな。ちゃんと家で待ってるかな)


そこでの思考が停止した。









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(10.10.12)
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