heaven's sky








天使が空から降ってきた。
決して嘘を言っているのではない、本当のことである。私は目の前の状況に背を向けたい気持ちに駆られたが、頬をつねっても叩いても痛覚がしたのでこれは夢ではないと認識した。現実である。




時を巻き戻して数分前。夕刻、私は学校から家へと帰っている途中だった。今日の晩御飯は何にしよう、寒いから鍋物でもしようかな、しかし一人では寂しいだろうか、そう考えている時だった。ドゴン、と何かが落ちた音が後ろからした。何が起こったのか気になり振り返る。すると、道路で羽根の生えた男がうずくまって倒れていた。金髪の男。背中には羽根。服は布を簡単に纏っているだけだった。一体なんなんだこの男は。私は無視をして通り過ぎ去ろうと思っていたが、落ちてきたためどこか怪我をしているようだったのが気になり、離れるわけにもいかなかった。加えて男は露出があまりにも大きい。冬真っ只中の季節に布だけ纏っているのでは相当寒いだろう。ましてやこの羽根を人間が私以外に見つかるとますますまずくなる。幸いながら通行人は自分以外いなかったため、私は着ていた制服のブレザーを男に素早く羽織らせた。


「あの、大丈夫ですか」


私は戸惑いながら恐る恐る男に尋ねた。


「ここはどこだ」


男は私の問いには答えず、逆に質問をしてきた。日本の○○という町です、私が答えると、日本か、聞いたことはあるな、と言葉が返ってきた。頭を打ったのか、痛そうに頭を抱えている。目を開いた男の瞳は綺麗な碧色をしていてまるで宝石のように輝いていた。あまりにも美しくて私は彼を思わず見つめてしまう。欧米人みたいだなあ、私は思った。しかし男は(その様子は直接見ていないが)空から降ってきて、おまけに羽根まで生えている。「天使」と名のつくものといっていいのだろうか、私は考えた。勿論のことだが、私は今まで天使というものを見たことがない。まさか現世で見ようとは思ってもみなかった。そしてまさかこんな典型的な姿だったとは、私は拍子抜けした。



「ここは寒いところだな。どこか温かい場所はないか」


コンビニでもどうです、私は答えようとしたが、こんな天使のような男をいかにも人前で見せびらかすような場所へ案内をすることは無茶だと考え、言葉に詰まった。天使。そうだ、彼には羽根が生えているじゃないか。頭は打っているが、空を飛べばすぐに元の場所へ帰れるのではないだろうか。




「その羽根で飛べないんですか」
私は問うた。


「実は羽根が折れちまって」




男の背中をよく見ると、男の言った通り左の翼が根元から半分折れていた。こんなんじゃ飛べねえよ、彼が言う。空は今にも雪が降りそうな雲合いで、しんとしばれる寒さである。私はすぐにでも家に帰りたい気持ちに駆られた。家に帰って温かいコーヒーを飲みたい。早くここから離れたい。とりあえずこの男をどうしようか。
私の家はエアコン付けたらあったかいけど。そう呟いたが、男を招き入れることなどしたことない私は、初めて出会った男、ましてや天使を家に入れるなんて考えもしていなかった。しかし思わぬことに意外な言葉が返ってきた。










「なあ、少しの間お前んち邪魔していいか」
「へ、」









この言葉をきっかけに、私と男の共同生活が始まった。












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(10.10.06)
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