一か月前から、来たる明日の七月二十九日は丸一日有給を取っていた。予定では、朝からケーキを焼いて、ホイップクリームを塗って、仕上がったら冷蔵庫で夜まで冷まして、その間にディナーの用意をして・・・。料理は正直彼ほど得意ではないが、頑張ったら何とかなるだろう。とにかく、明日が楽しみだ。なんたって明日は、愛しの彼の誕生日なのだから。


 早く明日、来ないかな!


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 翌日、私は三十九度の熱を出して風邪をひいた。


 最悪だ。ツイてなさ過ぎる。私の日頃の行いが悪かったのでしょうか、神様。何で今日に限って熱なんか出すんですか、神様。あんまりですよ、神様。泣いてもいいですか、神様。


 そうやって神様に愚痴を零してもどうにもならない。仕方なく私は、解熱剤を飲んで、布団に潜って丸一日休養する事にした。本来ならば今頃、愛しの彼と、私が腕を振るって作ったディナーを囲んで彼の誕生日祝いをしていた頃なのに。想像しただけで辛くなった。


 今にも泣きそうになった、そんな時だった。ピンポーンとインターホンが鳴ると、ガチャリと玄関の鍵の開く音が聞こえた。私以外にこの部屋の鍵を持っている人は、たった一人しか居ない。彼だ。


 しかし、出迎えたくても、どうにも体が動かなくて上体をを起こせない。その間にも、彼は玄関のドアを開けて、私のいる寝室へと向かってくるのが足音で分かった。そして遂に、寝室のドアがゆっくりと開けられた。


。大丈夫か?」
「克朗・・・」

 
 ドアの方に目を向けると、そこには白色のレジ袋を提げた克朗が現れた。走ってきたのだろうか。少しだけ、彼の息が上がっているような気がする。克朗の顔を見ただけで、何故だか安心した。


「ポカリを買ってきたんだが、飲むか?」
「うん。ありがとう」


 起き上がろうとしても力が入らない。それを察知した克朗は、私の背中に手をまわして起き上がらせてくれた。そして、ペットボトルのキャップを外し、ストローを差して私に飲ませてもくれた。至れり尽くせりなのは有り難いのだが、何となく今日に限っては悔しかった。


「せっかくの克朗の誕生日なのに、ごめんなさい」
「構わないさ。それよりもの体調の方が心配だ。ゆっくりするといい」
「ケーキ、作りたかった・・・」
「また元気になれば、その時作ってくれ」
「うん。ありがとう」


 克朗の優しさに、思わず涙が込み上げてきた。うるうると、私の目に涙が溢れている時、徐に克朗が言葉を放った。


「でも」
「でも・・・?」


 克朗は言葉を続ける。


。自己管理は大切だぞ。夏風邪は治りにくいとも言うしな」
「はい。ごめんなさい。以後気をつけます」
「何より、これからは俺の体調管理もしてもらわなくちゃいけないからな」
「そうだね。うん。・・・って、うん?」
「頼んだぞ、
「あの、一応聞くけど、それってつまり、どういう意味でしょう・・・?」


 克朗は一呼吸して息を整えると、笑顔を添えて、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「俺と結婚、してくれないか?」


 漸く下がろうとしていた熱が、みるみるうちに再び上がっていくのが分かった。








射止めてください


HAPPY BIRTHDAY!!
(2014/07/29)

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