“カンカン照り”。その言葉が一番相応しい今日の真っ昼間。とブン太は近くの海水浴場へとやって来た。真夏だという事もあり、人でごった返していた。人を押し分けるようにしながら待ち合わせ場所へと向かった先には、よりも早くブン太が待っていた。「ごめん、ちょっと遅れちゃった」というの言葉と、そして、いつもと違い、水着を身に纏ったの姿を見たブン太は途端にして目を丸くした。 「おまっ、その水着どうしたの」 「え? 変かな」 「変も何も、露出多過ぎだろい」 「だって店員さんが今年の流行りはコレだって教えてくれたのに」 「乗せられて買ってんじゃねえよ」 「可愛くないかなあ」 「い、いや。可愛いと思うぜ。うん。でも、正直目のやり場に困る」 「ごめん」 「褒めてるって事だよ」 に聞こえるか聞こえないくらいの声量でブン太が呟いた。 「ん? 何か言った」 「何でもねえ」 「ふーん」 そうして二人は真夏の海水浴を楽しんだ。事前にブン太が自宅から持って来た浮き輪に空気を入れると、いざ海へ行かん。何年も前から問題になっている地球温暖化の影響だろうか。海水温すらやや温かく感じられた。それでも尚、二人は楽しんだ。浮き輪の中に入ってプカプカと浮かんだり、水を掛け合ったり、砂浜の砂でお城を作ったりと、傍から見れば健全な高校生たちのデートに見えるだろう。しかし、二人にとってはそんな恋愛感情のような気持ちなど、一ミリたりとも無かった。いい友人、と言えば正確なのだろうか。 目一杯二人は遊ぶと、休憩がてら売店へと足を運んだ。はかき氷、ブン太はアイスを注文した。財布を取り出そうとしたを遮って、ブン太がの分の代金を支払った。「悪いよ」というの言葉を聞き流して、二人は、海の家で一旦足を休ませる事にした。海の家といえど、流石にこの時期だ。二人は端っこ辺りにちょこんと座り、冷たいものを食べて体を冷やす。 そんな時だった。が不意に顔を上げると、毎日足しげく通っている、あの丘が見えた。 「あ、見て見て。あの丘知ってる?」 「・・・あー、まあ知ってるっちゃ知ってるけど」 「私最近よく行ってるんだけどね。面白い人が居るんだ。今日は居ないみたいだけど」 の嬉しそうな言葉とは裏腹に、ブン太の顔がやや曇っていく。それは、自分の気のせいだろうと自身に言い聞かせながら、ブン太は先程売店で買ってきたアイスを頬張る。 「どんな奴なの」 「えっとねー、よく分かんない人」 「なんだそれ。外見とかあんだろ」 「ああ。銀髪で長髪の男の子。後ろで髪を束ねてるのが珍しいなあ。同い年だよ」 「。お前・・・仁王の事、知ってんのか」 「仁王って、あの仁王くん?」 「ああ。そいつは紛れもない、仁王雅治だ」 点と点が合わさり、そして線が結ばれる。その時、がずっと男の前で声に出して名前を呼んでいた『名無しさん』というのがあの『仁王雅治』という事を知り、もブン太も動揺を隠しきれなかった。 「。お願いだからもうあの丘には行くな」 「何で?」 「何でも、だ。あいつと居るとろくな事がねえ」 「でも名無しさ・・・仁王くん、いい人だよ。だから私はあの丘を登り続ける」 「・・・好きにしろい」 諦めたように、力なくブン太が答えた。しかし、それとは反対に力強く念を押すようにして、ブン太はにこう言った。まるでそれは懇願するような、そんな台詞のように思えた。 「でもな、」 「うん」 「決して仁王を好きになるな」 「へ? どうして」 「あいつは誰にも好きにならないんだよ。好きになっても無駄っつう話だ」 「そう、なの」 「だから、好きになるな」 「・・・分かった」 “あいつは誰にも好きにならない” ブン太の一言に、は一瞬にしてわだかまりを抱える事となった。 (2013/11/08) |