「光。私、どうしたらいいのかなあ」


 恋人が涙目で懇願していたら、助けないわけがない。




02




「とりあえず、暫く俺の部屋におってください。外に出たら驚かれるやろし」
「家にはどう説明したら?」
「俺から連絡しときます。さん。家の電話番号、分かります?」
「うん。06-XXXX-XXXX」
「おおきに」


 俺は今日、生まれて初めて焦りというものを感じた。周囲からはいつも澄ました顔でいると思われがちだったし、自分自身もそういう認識をしていた。ところがそんな俺が今、焦りに焦っている。非常事態だからしょうがないにしろ、これは異常だ。俺がこんな気が気でならない状態でいるなんて、一体誰が信じるだろうか。


 何れにせよ、さんの家に連絡をしなくてはいけない。携帯を取り出すと、先程教えられた番号に電話をかけた。丁度3コール目で彼女の母親であろう女性が高いトーンで電話に出た。


「もしもし、財前です。お世話になってます。あの、さんなんですけど夏休みの宿題が終わらへんって言ってるんで一週間ほど缶詰めで俺の家に泊めさせていただいてもええですか。・・・はい。え、いいですか?ありがとうございます。毎日さんには家に電話かけさせるんで大丈夫です。おおきに。それじゃあ、失礼します」


 電話を切ると、どうやら、一気に肩の荷が下りたようで深く溜息を吐いてしまった。とりあえず彼女の両親には一週間外泊の許可が下りた。緊張から乾いていた喉を潤すべく、テーブルに置かれていたウーロン茶を喉に流し込んだ。その間、不安げにさんは俺の様子を見つめていた。


「お母さん、何て言ってた?」
「学校が始まるまでっていう条件で許してくれました」
「良かった・・・」
「とにかく、今日は寝てください。明日ふたりで色々考えましょう」
「うん。ありがとう、光」


 俺のベッドに横にさせると、不安から少し気が緩んだお陰かは知らないが、すぐに寝息を立てて眠りだした。思わず一人、ホッと胸を撫で下ろす。正直、俺も心底疲れた。突然『恋人が消える』なんて事を告げられたら動揺しないわけがない。動揺が緊張に変わり、緊張が疲労に変化した。俺も今日はもう寝よう。そして明日、打開策を考えよう。ソファの上に横たわれば、天井を見上げながら目を閉じた。


 彼女には、何が何でも消えて欲しくない。
 しかしいつ見ても、彼女の腕は、ぼんやりと透けて消えかかろうとしていた。




タイムリミットまであと、6日








(2013/07/01)
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